黄蓍(オウギ)は、“补气诸药之最(多くの生薬の中で最も補気作用が強い)”と言われ、中医学では、気虚に由来する慢性疲労などに用いられる。 製法によって効果が異なり、補脾気を目的とする場合は、炙黄芪(乾燥後に蜂蜜で炒った黄蓍)を用い、病態に合わせて、党参、白術、甘草などを配合する。 生黄芪(切り刻んで乾燥させただけの黄蓍)は煮出して、お茶として常飲することも可能だが、1日あたりの使用量は10-30g以内が推奨されている。
また、中医理論では、黄蓍は原気を強烈に補う作用があると考えられている。原気は別名、元気または先天の精とも称され、元陰と元陽を含む、いわば気の一種であり、エネルギー体とも称せられる。気やエネルギー体などと称すると、いかにもオカルト的であるが、つまりは臓器と人体全般の機能を恒常的に保つ、電気的な信号の一種であると考えればわかりやすい。
原気は、中医学で言うところの腎(命門を含む)から生じ、丹田に蓄えられ、三焦の経絡を通じて全身に循環し、五臓六腑などの組織の活動を促し、六気生化の源となっている。黄蓍は、現代医学的には主に免疫機能の向上、中医学的には気虚、つまりはエネルギー不足、無気力感、慢性疲労に対する効能が高いとされている。
※六気:気、血、津、液、精、脈など、人体における基本物質。
※生化:運気作用のある六気の変化のうちの一つ。
国医大師として著名な中医であった朱良春は、93歳まで診療を続けていたが、その養生の秘訣は、緑豆(リョクトウ)50g、薏仁(ヨクイニン)50g、扁豆(フジマメ)50g、莲子(ハスの実)50g、ナツメ30g、クコの実10gを、黄蓍水(予め黄蓍30gを煮出した水)で煮詰め、これを5日間に分けて、毎日欠かさず食していたことだという。
また、宋代の文学家、詩人として名高い蘇東坡(蘇軾)は、極めて博学で、生薬にも精通しており、“白发欹簪羞彩胜,黄耆煮粥荐春盘。”という詩を残している。詩的な文章であるため、正確には邦訳しにくいが、あえて意訳すれば、「白髪で彩勝(立春用の装飾帽子)を被るのは恥ずかしいものであるが、(大病したがゆえに)黄蓍を煮込んだ粥を用意し、立春を迎える」という意味である。ちなみに、蘇東坡は、『小圃五咏·枸杞』において、クコの実は“神药(神の薬)”であり、“根茎与花实,收拾无弃物。(根茎、果実ともに、収穫後、捨てるところがなく、薬用または食用にできる)”と記している。