頸椎は腰椎と同様、身体における根幹である。特に頸椎は、脳の一部である脊髄が直下へ向かう最初の通過点であり、頭部と体幹部をつなぐ、重要な連絡路であり、様々な大小血管、神経が密集している。

そのため、頸部(首)の異常は、頭部および顔面部の慢性的な虚血や炎症に伴う頭痛(片頭痛)、眼精疲労、眼圧異常、眼のかすみ、まぶたの痙攣、チック、鼻炎、鼻詰まり、鼻水、花粉症様症状、耳閉感、突発性難聴、耳鳴り、鼓膜の異常、顔面麻痺、三叉神経痛、下まぶたのクマ、口唇ヘルペス、口内炎、喉の腫れや痛み、めまい、メニエール病、平衡感覚の異常、乗り物酔い、ニキビ、アトピー性皮膚炎、腫瘍などの原因となるだけでなく、体幹部や四肢の異常、呼吸器疾患など、様々な全身症状の隠れた病巣となりやすい。それゆえ、巷には「すべての病は首に原因がある!」と謳う治療家も少なくないが、あながちウソとは言えない。

しかし、頸椎異常の根本原因は、主に急性外傷や精神的、肉体的ストレス、過労などによる軟部組織の局所的な炎症である。症状が固定化している場合は、多かれ少なかれ、軟部組織に癒着が起こっており、「頸椎に歪みがあるから矯正する必要があるんじゃ!」などと言って、整体や整骨、カイロプラクティック的な手技により、ゴキゴキと音がするほどの衝撃を頸椎に与えた場合、癒着部周囲の軟部組織の内圧が高かったり、筋組織が萎縮した状態のままで骨が強制的に移動することになるため、結果として、頸椎は不可逆的損傷を負う可能性が高い。

実際、総務省が令和2年11月にまとめた『消費者事故対策に関する行政評価・監視 -医業類似行為等による事故の対策を中心として-  結果報告書 』(chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.soumu.go.jp/main_content/000717043.pdf)によれば、事故情報データバンクに登録された事故情報(平成30年4月10日現在)を総務省が独自に集計した結果、平成26年度から29年度までの4年間で、医業類似行為等によるものは計3,678件(医業類似行為1,534件、エステティック2,144件)あったとされる。

総務省『消費者事故対策に関する行政評価・監視 -医業類似行為等による事故の対策を中心として-  結果報告書 』より引用

注目すべきは、これらの事故の分析結果であり、医業類似行為による傷病内容は、上図のとおり、分析対象とした1,534件のうち、「神経・脊髄の損傷」が274件(17.9%)と最も多く、次いで、「擦過傷・挫傷・打撲傷」が181件(11.8%)、「骨折」が134件(8.7%)となっている。これらの事故は医療類似行為に多くみられる無鉄砲な手技によって、無理に筋肉をほぐそうとしたり、強引に骨格を矯正しようとしたことなどが影響したのではないか、との趣旨で、総務省は結論付けている。

もちろん、日本においては、鍼灸も医業類似行為であり、鍼灸師による事故も少なからず報告されているが、多くの事故は民間資格者の無知や勘違い、思い込み、過信などに起因するところが大きいと考えられる。

したがって、頸部損傷や肋骨の骨折などのリスクを考えると、頸部や背部の慢性的な異常感や疼痛に悩んでいたとしても、激しい手技を用いた治療は避けるのが無難である。強もみしたり、無理に関節をゴリゴリ鳴らせば、関節腔内の圧力上昇によって生じていた気泡が割れ、瞬間的な減圧作用で楽になったような気がしたり、同時に脳内麻薬が放出されることで、あたかも効いたかのような錯覚に陥ったり、強刺激による快感を覚えるのかもしれないが、数日後には元の木阿弥である。何より、悔やんでもすでに時遅し的な、不可逆的損傷を負う可能性も少なくない。

当院では健康維持のため、首(頸椎)から背中(胸椎下部)あたりまでの定期的な刺鍼を推奨している。なぜなら、前述したように、頸椎と胸椎は脊髄を内包する身体の要であり、神経根や大血管を要する身体のいわば幹であり、末梢の状態を司る第二の脳に等しいからである。

鍼治療は、適切に刺鍼すれば、副作用がほとんどなく、体調の維持やアンチエイジング、疼痛の緩和、精神や自律神経の安定などに最も有効な施術の1つである。30歳以降は老化が始まり、代謝が低下してくるため、10代の頃のように寝たら回復するという、当たり前だったリカバリーが徐々に失われてくる。そのため、日々の食事改善や適度な運動、メンタルケア、ストレスコントロールなどに加え、定期的かつ効果的な鍼施術を取り入れることで、より快適で有意義な人生を送ることが可能となる。