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以前松江に住んでいたせいか、ナシといえば、やはり鳥取県の二十世紀が好みである。

東京のナシといえば多摩川梨が有名で、現在、稲城市に約110戸、日野市に25戸のナシ農家があるそうだ。あまり知られていないが、府中市でもわずかながら栽培されている。

多摩地域で特に人気なのは稲城と呼ばれる品種であるが、生産量が少ないこともあり、基本的には直売でしか購入できず、市場には出回っていない。稲城は大玉で果汁が多く、甘みと口当たりの良さが特徴だ。

東京でのナシ栽培は元禄期(1688~1704年)に、多摩郡長沼村の代官増岡平右衛門と川島佐次右衛門が、山城国(今の京都付近)から、淡雪と呼ばれる品種を持ち帰ったのが始まりだそうだ。

二十世紀梨は東京のナシに比べて酸味があり、スッキリとした爽快感があるけれど、どうやらあれは、リンゴ酸やクエン酸が多く含まれていることによるらしい。

現在、日本で栽培されている多くのナシは中国原産だそうだ。中国では、古くからナシは薬として用いられている。

李時珍の『本草綱目』によれば、特に薬効が高いのは乳梨(雪梨)、鹅梨(绵梨)、消梨(香水梨)の3種だけらしい。

果実は咳止や消炎、喀痰などに対する効能が高く、特に痰が黄色であるとか、口渇感があるとか、熱症状が強い時によく効くとされる。さらに、解毒作用、イライラや鬱症状の緩和にも効果があると記されている。

花は肌荒れ、毛穴の汚れに効果があると記されているが、使用方法については言及されていない。

葉は、すり潰した汁を服用することで解毒、鼠経ヘルニアに、煮汁は細菌感染による嘔吐、下痢などに、煎汁は六淫の1つである风邪に効果があるとされる。

中医学では現代人の60~70%程度が痰病または火病であるとしていて、ナシを適度に摂取することで、多くのメリットを享受できるとしている。

しかしながら、药三分毒(薬には三分の毒が含まれる)というように、ナシにも禁忌がある。

乳幼児、血虚者、妊産婦(出産前後の女性)、脾胃虚寒や胃酸分泌過剰、夜尿、手足の冷え、糖尿病、胃腸の冷え、出血傾向などが見られる者は、ナシを食べ過ぎないようにして、食べるならば糖分の少ない梨を煮て食べるのが良い、と言われている。

以下は、中国の主な古典に見られるナシの効用だ。一般的に中医関係の資料は日本語に翻訳すると誤訳が多くなりがちであるから、中国語で読んだ方が正確に理解しやすい。

1.《千金食治》:除客热气,止心烦。

2.《唐本草》:削贴汤火疮,不烂、止痛、易差。又主热嗽,止渴。

3.《食疗本草》:胸中痞塞热结者可多食好生梨。卒风失音不语者,生捣汁一合顿服之,日再服。

4.《日华子本草》:消风,疗咳嗽,气喘热狂;又除贼风、胸中热结;作浆吐风痰。

5.《开宝本草》:主客热、中风不语,又疗伤寒热发,惊邪,嗽,消渴,利大小便。

6.《滇南本草》:治胃中痞块食积,霍乱吐泻,小儿偏坠疼痛。

7.《本草纲目》:润肺凉心,消痰降火,解疮毒、酒毒。

8.《本草通玄》:生者清六腑之热,熟者滋五脏之阴。

9.《本草求原》:梨汁煮粥,治小儿疳热及风热昏躁。

ナシは林檎に比べて環境への適応性が高く、耐寒、耐乾、耐水、耐アルカリ性であるため、冬季の最低気温が零下25度以上でも、火山灰土や石灰混じりの土でも、生育するらしい。実際に、零下30度以上になるハルピンには、樹齢100年を超えるナシの木があるそうだ。