古代に多くの名医を輩出した中国には、医学に関する諺が無数にある。

 

例えば、『裴子言医・序』には、“德不近佛者不可为医,才不近仙者不可为医”という格言がある。

 

これはつまり、「釈迦の如き道徳や品性に欠ける者は医者になれず、仙人の如き能力や技術に欠ける者もまた、医者にはなれない」と言う意味である。

 

唐代の中医で、「薬王」と称された孫思邈は、民間伝承医学を重視し、各地に伝わる様々な処方、医術を記録し、『千金要方』としてまとめたが、医師としての最低条件に、“大医精诚(医師の卓越した専門性と高尚な道徳性)”という格言を記している。

 

以上の格言は、ともに医師が備えるべき仁徳や品性、高度な専門的技術の重要性を説いている。

 

現代では、自称名医が雨後の筍の如く現れ、真の名医に出会うことは容易ではない。日本鍼灸界においても、医師免許がないのに、違法的に「鍼医」と自称する不届き者も少なくない。

 

また、患者に暴言を吐いたり、横柄な態度をとる輩もいれば、猥褻な行為を働き、お縄を頂戴する輩もいる。もはや、現代には、医療者としての最低限の道徳に加え、高度な専門的技術を備える者は数えるほどしかいない。

 

結局のところ、医学における仁徳と技術は、仏教でいうところの心身一如に等しく、心が無ければ身体が整うこと能わず、心技一体は実現し得ぬため、高度な技術は習得し難い。

 

したがって、術者の人間性を冷静に観察することで、その品性や技術の如何は、ある程度推測することができる。