現代で最も著名な中医の1人である路志正は、90歳の時の健診で血管年齢が40代と診断され、無病で103歳まで医師として働き続けた。彼は長寿の秘訣として、以下の3つを挙げている。
1.酢漬けにした生姜を毎朝3切れ食べる
2.朝晩、10分ほど櫛で髪を梳かす(頭皮のツボを刺激する)
3.就寝前に足湯をする
路志正が生姜を重視した理由として、張仲景が傷寒論や金匱要略で、生姜を用いた処方を多く記したことと、孔子が論語に「不撤姜食(毎食生姜を欠かさない)」という言葉を多く記したことを挙げている。
生姜には、脾胃保護、胆汁分泌促進、除寒邪、発汗、抗酸化、悪玉コレステロール減少などの作用があるとされる。しかし、生姜の性質は温性であるため、陽気が増加する時期、時間に少量食べるのが良いとされている。
つまり、生姜は春夏の朝に少し食べるのが良く、秋冬は大根を欠かさず食べるのが良いとされている。基本的に陽気が減少する夕方以降や秋冬は生姜の摂取は避けたほうが良い。これらは、黄帝内経に記されている“天人相应(天地自然と人間は互いに呼応している)”という思想が根本にあり、中医学ではいわゆる“顺四时(四季に応じた生活をすること)”を、病気を予防し、健康的に生きるための基本として、最重要視している。では、なぜ、生姜を秋冬に食べてはいけないのか?
中医学では、食物にはそれぞれ性質があり、生姜の根茎の皮は冷性(体を冷やす)、根茎の実は温性(体を温める)であり、食せば、主として身体の陽気を増強させる作用があると考えられている。また、脾胃虚寒の症状がある場合は皮を剥いて食すとか、逆にのぼせやすい人や湿熱体質の人は皮ごと食すとか、症状や病態によって食べ方の細かいルールがあり、生姜を乾燥させた場合や、熱を加えて調理した場合も、効能が異なるため、生姜の用い方について細かいところまで説明するとなると、かなりの時間を要する。
中医学では四季における陽気の増減を「春生、夏长、秋收、冬藏」と表現しており、これはつまり、「春は陽気が生じ、夏は陽気が最大となり、秋は陽気が減少して陰気が増加し、冬は陽気が隠れ陰気が最大となる」ということを意味している。そのため、食物の摂取方法には細かいルールが決められているのである。ちなみに、以前、ブログで記した子午流注も、1日における体内の陽気と陰気の増減や五臓六腑の盛衰を表している。要するに、健康に生きるためには、自然の法則に従うことが前提として、最も重要ということである。
中医学では、脾胃を最重要視するが、その理由は、脾胃が後天の本であり、食物の消化吸収、気血の生成などを促し、各臓器の健全性を維持する働きがあると考えられているからである。それゆえ、足三里へ毎日施灸すれば、130歳を超える長寿を全うできる、と断言する中医もいる。
ちなみに、宋代に蘇東坡が記した『東坡雑記』には、「予昔监郡钱塘,游净慈寺,众中有僧号聪明王,年八十有余,颜如渥丹,目光迥然。自言服姜四十年,故不老。(杭州銭塘の浄慈寺へ行った時、聪明王という僧侶がおり、齢八十余り、顔はヒメユリのような明るい血色で、眼光は炯々としていた。四十年間、生姜を飲み続けたがゆえに老いず、と言う)」とある。