北京では春になると、街中にたくさんの胞子が舞う。一見すると雪が降っているかのようにも見えるが、少し観察すれば雪ではないことがわかる。最近、これを「中国特有の汚染物質だ!」と騒ぐ人や、果てには「中国の大気汚染は深刻である!」とか、「中国に行く奴はアホだ!」とか叫ぶ人もいるようだ。無知は恐ろしいことだと思うけれども、ネットやメディアが過剰に発達した情報過多な現代では、もはや真実を見分けること自体が難しくなっているのかもしれない。
日本の報道では、中国は常に大気汚染に曝されているようなイメージだ。しかし年間を通してみると、実際にマスクが必要となるのは半年間くらいだと思う。例えば北京では、11月半ば~3月頃はセントラルヒーティングが作動したり石炭の消費量が増えるから、汚染が重度になりやすい。この時期はN95マスクなど、本格的なマスクがあった方が良い。ちなみに、N95マスクならシゲマツ製ラムダラインがおススメだ。
4月は街路樹であるエンジュやヤナギなどの胞子が市内を大量に飛び回るし、5月は西北から黄砂が飛来するから、この時期にもマスクが必要だ。6~11月前半くらいはマスクがなくても過ごしやすい日が多い。北京を観光するなら7~10月くらいが無難だが、夏はジリジリと暑いし、光化学スモッグが発生する日もあるだろうから、10月くらいが北京のベストシーズンと言えるかもしれない。中国は基本的に黄土で雨が少なく、空気が乾燥しているし、寒暖の差も比較的大きいから、東京のように年間を通して過ごしやすいということはあまりない。
北京市内には、胡同を中心に沢山の街路樹が植えられている。主に植えられているのは北京市の市樹に指定されている槐树(huaishu、エンジュ)や杨树(yangshu、ハコヤナギ)、柳树(liushu、ヤナギ)だそうだ。これらの木が春に飛ばす、白い綿状の種子のことは杨花(yanghua)とか柳絮(liuxu)と言う。「絮(xu)」というのは綿毛のことだ。ちなみに、柳絮が舞うことを中国語では柳絮飘と言う。
北京市では1980年頃から杨柳の植樹が開始され、現在ではハコヤナギは約350万本、ヤナギは約150万本も植えられているそうだ。近年、成熟段階に至った木々が次々と綿状の種子を飛ばすようになり、市民の生活を脅かすようになってきた。そんなわけで、市民の悩みのタネとなっている飞絮问题を解決すべく、北京市は杨柳飞絮抑制剂として、2009年頃から、雌株に綿毛を抑制する薬液である 「抑花一号」 を注射するようになったらしい。要するに種子の発生を抑える、木の避妊手術みたいなモノだ。
しかし、本当に綿毛の舞う量が減っているのかは謎だ。実際に、今でも春に北京市内を歩いていると、口や鼻の穴へ綿毛が飛び込んでくるくらい酷い。特に街路樹の多い胡同では柳絮地獄となる日もあって、マスクがないと外では会話ができぬし、出歩くのも嫌になるくらいだ。
そうは言っても、中国の北方では緑化の一環として木が必要だから、伐採することはできないらしい。特に、ヤナギの類は黄土でも育ちやすく、緑化以外にも防砂、防風の役目も果たし、家畜のエサとしても利用できるため、中国では古くから、広く植林が進められてきたそうだ。貧しい農家では、ヤナギの葉を食べて飢えをしのいだという話もあるから、一応人間の食糧にもなるらしい。
そんなわけで、柳絮に関しては不快だったけれど、今年は念願の長城へ行けて良かった。日程の都合で八达岭长城にしか行けなかったが、良い思い出になった。2016年11月以降、S2線の始発駅は北京北駅から、黄土店駅へ変更になったようだ。一卡通も使えるし、八达岭へのアクセスは随分と良くなった。
八达岭熊乐园側の登城入口の横で売られていた羊肉串は、北京市中心部で売られているモノよりもずっと美味しかった。羊肉串は文字通り、羊肉を串刺しにして焼き、孜然(クミン)や辣椒(唐辛子)をふりかけた、焼き鳥みたいなモノだ。元々はウイグル族が食べていたらしいが、現在では北京の至る所で売られている。正直、世界遺産である長城は1度行けば良いかな、という感じだったけれど、この羊肉串はまた食べてみたいな、と思った。それが何かはわからないけれども、美味い羊肉串には人を病みつきにさせる、独特の風味がある。